自動化とスマート機器

小規模オフィスにIoT機器を入れるときの進め方

小規模オフィスへのIoT導入で詰まるのは機器選定ではなく運用側です。個人宅との違いはアカウント・人の入れ替わり・停止時の影響の3点に集約されるため、目的を1つに絞り、1台から広げる進め方を整理しました。

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SCOPE

対象
少人数のオフィスに遠隔管理やセンサーの導入を検討している経営者・管理担当者
到達点
導入の目的を絞り、運用が回る範囲で計画できる状態
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空調を切り忘れていないかを確かめるためだけに、休日に誰かが事務所へ寄る。この往復をなくそうとしてスマートプラグやセンサーを1つ買い、自分のスマートフォンで動かすところまでは、たいてい何事もなく進みます。

詰まるのは次の段階です。同じ操作を他の3人にもできるようにしようとした瞬間に、アカウントを共有するのか分けるのか、誰の端末にアプリを入れるのか、その人が抜けたときに何を取り消すのか、という問題がまとめて出てきます。自宅なら家族に自分のアカウントを渡して終わりにできますが、オフィスでは同じ手が使えません。

小規模オフィスのIoT導入がうまくいかない原因は、機器の性能ではなく運用を後回しにしたことにあります。ここでは機器の選定ではなく、少人数の職場でも回り続ける形に導入計画を組み立てる手順を扱います。

個人宅の延長で入れると、決まった場所で詰まります

家庭とオフィスの違いは、使う人数が多いことではありません。人が入れ替わること、設定する人と日々使う人が別になること、止まったときに業務が止まることの3つです。この3つが、設計しなければならない箇所をつくります。

判断軸 個人宅 小規模オフィス
操作する人 家族数人。全員の顔と使い方が分かっている 従業員・短期の応援・出入りの業者。時期によって入れ替わる
アカウント 世帯主のものを共有して済む 共有すると、1人抜けるたびに全員分を配り直すことになる
止まったときの影響 手でやれば済む。困るのは自分だけ 出社しても何もできない時間が生まれる。記録が抜ける
管理する人 買った本人がそのまま触り続ける 買った人が休みの日、外出中の日がある
記録の扱い 残らなくて困らない 労務や保安の確認で、後から見返す場面が出てくる
撤去のしやすさ 自分の判断で外せる 賃貸なら原状回復の条件があり、管理会社の確認が要る

最初に効いてくるのは「アカウント」の行です。個人宅では共有で片づくものが、オフィスでは人の入れ替わりのたびに作業を発生させます。次に効くのが「止まったときの影響」の行で、こちらは買った後では変えられません。機器を選ぶ前に決める必要があるのは、この2つです。

目的は省力化・記録・セキュリティのどれか1つに絞ります

「オフィスを便利にしたい」という目的では機器を選べません。同じセンサーを置いても、何のために置くかで必要な設定と、その後に発生する運用が変わるためです。目的は大きく3つに分かれます。

判断軸 省力化 記録 セキュリティ
成功したと言える状態 決まった手作業が発生しなくなった 後から「いつ何が起きたか」に答えられる 権限のない人が触れない状態を保てている
必要になる仕組み 時刻や在不在で動作する条件 保存先と保存期間の取り決め 個人を識別する仕組みと、権限を失効させる手順
導入後に増える手間 ほとんど増えない。季節ごとの手直し程度 保存容量の管理と、たまったデータの扱い 人が増減するたびの権限の棚卸し
止まったときの困り方 手作業に戻すだけで済む 抜けた期間は後から埋められない 一時的に管理が効かない状態になる
やめるときのコスト 外して終わり 過去のデータをどう扱うか決める必要がある 代わりの運用を用意しないと外せない

3つを同時に狙うと、要件が正面からぶつかります。省力化だけなら「人がいなくなったら消える」で足ります。記録が目的なら誰が在室していたかを個人単位で区別する必要があり、識別の仕組みを入れた時点で、退職のたびに権限削除の作業がついてきます。省力化のつもりで始めて人事の作業が増えるのは、この経路です。

編集部としては、最初の1台は省力化に寄せることを勧めます。理由は撤退のしやすさで、うまくいかなければ手作業に戻すだけで済むためです。記録とセキュリティは、止まった期間や守れなかった期間がそのまま残ります。運用が回る手応えを得てから進む順番のほうが、やり直しの費用が小さくなります。

アカウントを個人に紐づけると、退職のたびに作り直しになります

アカウントの持ち方は3つに分かれます。どれを選ぶかで、人が抜けたときの作業量が決まります。

  • 代表者の個人アカウントを全員で共有する。設定は最短で終わりますが、1人抜けるたびにパスワードを変更し、残る全員に配り直すことになります。誰が操作したのかも区別できません
  • 管理用のアカウントを1つ用意し、そこから各人を招待する。抜けた人の招待を取り消せば済みます。多くの機器やアプリがこの形に対応しています
  • 一部の機器はアプリに載せず、物理の操作のまま残す。権限管理の対象そのものを減らせます。すべてをアプリに寄せる必要はありません

管理用のアカウントは、個人のメールアドレスで作らないでください。担当者が抜けたときに、権限ごと取り出せなくなります。事業用のアドレスか、複数人が受け取れる共有アドレスで作り、ログイン情報の保管場所を決めておきます。

そのうえで、人が抜ける日にやることを導入時に書き出しておきます。実際に発生するのは次の作業です。

  • 招待の取り消し。管理アカウント方式なら、ここだけで終わります
  • 共有アカウント方式の場合は、パスワードの変更と残る全員への再共有。抜ける人が出るたびに繰り返します
  • その人の私物端末に入ったアプリからのログアウト。会社側から強制はできないため、私物端末に業務の権限を載せてよいかを導入時に決めておく必要があります
  • 物理の鍵やカードを併用しているなら、その回収

権限の一覧は、機器側の管理画面だけに置かないでください。機器が複数のメーカーにまたがると、画面をいくつも開いて確認することになり、確認自体をやらなくなります。「機器/設置場所/管理アカウント/権限を持つ人/最終更新日」を1枚の表で持っておけば、退職の連絡が来た日に見るべき場所が1か所で済みます。

家庭向けの製品をそのまま業務に持ち込むと、個人アカウント前提の設計につまずきやすくなります。その具体的な差はスマートホーム製品を仕事場で使うときの注意点で扱っています。

通信と電源が落ちたときの動きは、買う前に確かめます

「止まったらどうなるか」は、機器のカテゴリではなく製品ごとに違います。カタログの機能一覧には書かれていないことが多く、提供元の説明やサポートの記載を見るか、問い合わせて確認することになります。確認するのは次の点です。

  • 通信が切れているあいだ、機器は直前の状態を保つのか、初期状態に戻るのか
  • 手元のスイッチや物理の操作で、同じことができるか。できないなら、通信が切れた時点でその業務が止まります
  • 電池で動く機器なら、残量の通知がどこに届くか。届く先が1人の私物端末だけだと、その人が休んだ週に切れます
  • 停電から復旧したとき、自動で元の設定に戻るのか、人が現地で入れ直すのか
  • クラウド側の障害か、自分のネットワークの問題かを、その場で切り分ける手段があるか

設計の原則は1つで、止まると業務が止まる系統には手動の経路を必ず残すことです。出入り、最低限の空調、通信の3つが該当します。手で取り返せる系統なら、多少不安定でも運用は壊れません。最初に自動化する対象をどう選ぶかは仕事部屋を自動化するにはどこから手をつけるかで扱っているので、対象がまだ決まっていない段階なら先にそちらを見てください。

ネットワークが不安定なまま機器を足すと、原因が機器なのか回線なのかを切り分けられなくなります。すでにWeb会議が途切れる状態なら、仕事場のWi-Fi環境を改善する手順を先に済ませてください。

なお、施錠まわりは締め出しが絡むため、止まったときの設計が他の機器と別扱いになります。入れるかどうかの判断自体が条件によって変わるので、小規模オフィスにスマートロックは必要かを見てから決めてください。

管理者が1人しかいない状態を作らないでください

少人数の職場では、機器を買った人がそのまま管理者になります。設定の経緯もアプリの操作もその人の頭の中にあり、動いているあいだは誰も困りません。困るのは、その人が休んだ日に機器が止まったときです。

引き継げる状態にするために要るのは、詳細な手順書ではありません。次の3つが本人以外からたどれれば足ります。

  • どのアカウントで管理しているか、ログイン情報がどこにあるか
  • 機器の設置場所。天井近くや棚の裏、デスク下に入れたものは、置いた本人しか場所を知りません
  • 復旧手順。多くの場合は電源を抜いて挿し直せば戻りますが、それをやってよい機器といけない機器を分けて書いておきます

書けたかどうかは、試すと分かります。管理者が一切触らない状態で1週間動かしてみてください。その期間に出た質問が、そのまま設計の粗い箇所です。

1台から広げる手順と、広げてよい合図があります

最初から複数の機器を同時に入れると、うまくいかなかったときに原因を追えません。次の順で進めます。

  1. 1系統に1台だけ置き、2〜4週間そのままにする。対象は毎日発生し、失敗しても業務が止まらない操作です。この期間で見るのは便利さではなく、手作業に戻した回数です
  2. 操作する人を1人増やす。ここで説明が必要になった箇所が、そのまま設計の弱点です。口頭で補えば動きますが、補わないと動かない仕組みは、人が入れ替わった時点で使われなくなります
  3. 記録が必要な領域に広げる。ここで保存期間と保存先を決めます。決めずに始めると、必要になった時期のデータが残っていない、という形で後から分かります
  4. 止まると業務が止まる領域へ進む。ここに来る前に、復旧手順が管理者以外の手で1度は動いている必要があります

次の段階へ進んでよい合図は、機器が増えたことではありません。直近1か月で手作業に戻した回数がゼロか、管理者以外が問題なく触れているか、実際に止まったときに想定どおりの動きをしたか、の3つです。3つ目は待っていても確認できないので、通信を意図的に切って試してかまいません。

逆に、条件の組み合わせを自分で説明できなくなったとき、あるいは誰かが「使い方が分からないので元のやり方でやっている」と言い出したときは、そこで止めます。後者は手作業と仕組みが二重に走っている状態なので、増やす前にどちらかへ寄せます。

次にやること

導入するかどうかを含めて決まっていない段階なら、この順で進めます。

  1. オフィスで毎日発生している手作業を5つ書き出す。そのうち、実行するときに判断が要らないものだけを残します。1つも残らなければ、いまは機器を入れる場面ではありません
  2. 残った操作について、機器が止まったときに手で代替できるかを確認する。代替できないものは最初の候補から外します
  3. 目的を1つ選ぶ。省力化・記録・セキュリティのどれかで、複数選ばないようにします
  4. 事業用または共有のアドレスで管理アカウントを作る。個人の私物アカウントで最初の1台を設定してしまうと、後から移すのに初期化が必要になる機器があります
  5. 1台だけ導入して、2〜4週間動かす

よくある詰まりどころ

賃貸オフィスで、工事が必要な機器を選べない

扉や電源の配線に手を入れる機器は、貸主や管理会社の確認が要ります。置くだけ、挟むだけ、コンセントに差すだけの機器から始めれば、確認を待たずに検証できます。工事が要る構成へ進むときは、原状回復の条件を先に文書で受け取っておいてください。

人数が少ないので、運用のルールまでは要らないと感じる

少人数の職場ほど、1人が抜けたときの影響が大きくなります。判断の材料になるのは分量ではなく、復旧手順が1枚に収まっているかどうかです。1枚に収まらないなら、設定が複雑すぎるほうを直します。

機器のメーカーがばらばらになってきた

アプリが分かれると、退職時の権限削除が機器の数だけ発生します。追加のたびに、いま使っているアプリで束ねられるかを先に見てください。束ねられないなら、その1台は物理操作のまま残す選択肢もあります。連携・代替手段・管理者という選定の軸はスマートオフィス機器の選び方で機器の種類ごとに整理しています。

効果を人に説明できない

省力化を目的にしたなら、その作業が月に何回発生していたかを導入前に数えておきます。導入後に数えても、比較する相手がありません。回数がないまま「楽になった気がする」としか言えないと、次に何へ投資するかを決められなくなります。