自動化とスマート機器

仕事部屋を自動化するにはどこから手をつけるか

仕事部屋の自動化でつまずくのは機器選びではなく対象選びです。毎日発生する・判断が要らない・失敗しても戻せるの3条件で対象を絞り、照明から順に難度が上がる理由と、条件を足しすぎて破綻させない設計を扱います。

PUB UPD CAT 自動化とスマート機器 READ 約8分

SCOPE

対象
在宅勤務や自宅オフィスの環境を自動化して手間を減らしたい人
到達点
自動化する対象の選び方が分かり、最初に着手する1つを決められる状態
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スマートプラグを1つ買って照明につないだところで止まっている、という状態はよく起きます。アプリからは点けられるのに、実際には壁のスイッチを手で押している。設定を間違えたわけではなく、自動化する対象の選び方が合っていないだけです。

スマホから操作できるようにすることは、自動化ではありません。壁のスイッチを押すのと、スマホを取り出しロックを解除してアプリを開くのを比べれば、手数は後者のほうが多くなります。減らしたいのは1回あたりの操作ではなく、「毎日決まった時刻に、決まったことを、忘れずにやる」という繰り返しのほうです。

そのため、最初に決めるのは買う機器ではなく、部屋の中のどの操作を機械に渡すかです。対象さえ間違えなければ、機器は後から選べます。ここでは部屋全体を対象に、渡してよい操作の条件、着手する順番、破綻させないための設計を扱います。机の上だけに絞った自動化は範囲が違うため、デスク周りで自動化できることと、しないほうがよいことで別に扱っています。

機械に渡してよい操作は3つの条件を満たします

対象を選ぶ基準は3つあります。

  • 毎日、あるいは毎回発生する
  • 実行するときに判断が要らない
  • 失敗しても、その場で手で取り返せる

まず頻度です。自動化は設定した時点で終わりません。季節や働き方が変われば手直しが要り、機器を入れ替えれば設定し直しになります。週に1回しか発生しない操作では、この手間のほうが削減できる時間を上回ります。1日に1回以上発生しているかどうかで線を引くと、候補が現実的な数まで減ります。

2つ目の「判断が要らない」は、条件を時刻やセンサーの値で書き切れるか、という意味です。「暑くなったらエアコンを入れる」は判断に見えますが、温度という観測できる値に置き換えられます。一方、「その日の予定で仕事部屋を使う時間が変わる」は部屋の側から観測できません。観測できない条件を時刻で代用すると、使わない日にも動く仕組みになり、結局は手で止めることになります。

3つ目は、失敗したときに何が起きるかです。照明が点かなければ壁のスイッチを押せば済みますが、鍵が開かなければその場では何もできません。同じ「自動化」で括られていても、失敗のコストはまったく違います。最初の1つは、コストが低いほうから選びます。

操作 発生頻度 条件を数値で書けるか 失敗したときに起きること
照明の点灯・消灯 1日に数回 時刻と明るさで書ける 手でスイッチを押す。作業は止まらない
空調の運転 季節によっては毎日 温度で書けるが快適さの基準は人による 暑い・寒いまま。気づいた時点で手で操作できる
加湿・換気 毎日だが気づきにくい 湿度と時間で書ける 乾燥や空気のこもりに気づかないまま過ぎる
玄関・部屋の施錠 1日に数回 在室と時刻では例外を拾い切れない 締め出される、または開いたまま。その場で取り返せない
機器の電源の入切 1日に1〜2回 時刻で書けるが処理中かどうかは見ていない 作業中に切れると、保存前のデータや処理が失われる

3条件のどれかを外れる操作は、候補から先に外します。

  • その日の状況で答えが変わる操作。来客対応、宅配の受け取り、書類の仕分けが代表です。条件を書こうとすると例外が延々と出てきて、書き終わりません
  • 月に数回しか発生しない操作。手でやったほうが早く、しかも設定した内容を忘れたころに次の機会が来ます
  • 止まると仕事が止まる操作。ネットワーク機器と作業用PCの電源がこれにあたります

着手順は照明・空調・施錠・電源の順に難度が上がります

この4つは、条件の書きやすさと失敗の取り返しやすさが順番に厳しくなります。上から手をつければ、前の段階で身につけた勘が次で使えます。

照明は、条件が時刻と明るさだけで書けます。失敗しても壁のスイッチを押せば済みます。注意するのは方式の違いです。電球そのものを置き換える方式は、壁のスイッチを切ると通電が止まり、アプリからも操作できなくなります。同居している人が普段どおりスイッチを切れば、翌朝の自動点灯は動きません。壁のスイッチを常時オンで運用する前提を共有できないなら、電源側や器具側で切り替える方式を選びます。

空調からは、条件に主観が混ざります。同じ室温でも、暑いと感じるかどうかは人と時間帯で変わります。温度センサーも置き場所で読む値が変わり、窓際やドアの近く、機器の排熱が当たる場所では部屋の代表値になりません。赤外線でリモコン信号を送る方式には、機器側の状態を確認できないという弱点もあります。運転が始まったのか止まったのかを仕組み側が把握していないため、二度送ると意図と逆になることがあります。季節ごとに設定を見直す前提で組みます。

施錠は、失敗したときのコストが4つのなかで最も高くなります。電池が切れる、通信が届かない、同居している人が内側から手動で施錠する、といった要因がすべて締め出しにつながります。物理の鍵を持ち歩く運用は残してください。導入すべきかどうかの判断は条件によって変わるため、小規模オフィスにスマートロックは必要かで要否の見方を扱っています。

電源の入切は通電を切るだけの操作で、機器側の都合を一切見ていません。処理中でも書き込み中でも切れます。対象にしてよいのは、途中で落ちても困らないもの、たとえば照明器具、サーキュレーター、充電器です。PC、外付けストレージ、ネットワーク機器は含めません。電源タップごと切る構成にすると、後から機器を1つ足しただけで対象が広がるため、系統を分けておきます。

照明 空調 施錠 電源
条件の作りやすさ 時刻と明るさで足りる 温度に加えて体感の差が入る 在室・時刻では例外を拾えない 時刻で書けるが機器の状態を見ていない
失敗したときの影響 ほぼない 暑い・寒いまま過ごす 入れない、または開いたまま 保存前のデータや処理が失われる
手で戻す方法 壁スイッチ、リモコン 付属のリモコン 物理の鍵 手で挿し直す
保守として発生すること ほぼない 季節ごとの見直し 電池残量の管理 機器の入れ替えごとの見直し
最初の1つに向くか 向く 慣れてから 後回し 対象を絞れば可

条件を足しすぎた自動化は必ず壊れます

動かなくなる原因の多くは、機器の故障ではなく条件の複雑化です。「平日で」「午前7時で」「在室していて」「前日に部屋を使っていたら」と条件を重ねるほど、動かなかったときにどれが原因かを追えなくなります。条件が2つまでなら片方ずつ外して試せますが、4つになると確認の組み合わせが現実的な数を超えます。1つのルールに書く条件は「時刻+もう1つ」までに抑え、それで表現できない動きは、ボタンや音声で人が起動する形に落とします。

もう1つの壊れ方が、ルール同士の衝突です。「暗くなったら点ける」と「22時に消す」を同じ照明に設定すると、22時以降も暗いままなので、機器によっては消灯と点灯を繰り返します。同じ機器を動かすルールは、増やす前に一覧で見えるようにしておきます。

ルールの名前には目的を書いてください。「自動化1」では、半年後に何のために作ったのか分かりません。「朝、仕事部屋に入る前に点ける」とあれば、生活が変わったときに消してよいか判断できます。設定変更は1回に1つだけにします。2つ同時に変えると、どちらが効いたのか分かりません。

自分しか動かせない仕組みは長続きしません

自動化は、同じ空間を使う人の操作方法を勝手に変えてしまいます。壁のスイッチが効かない、リモコンで設定した温度が数分後に上書きされる、といった状態は、設定した本人以外には理由が分かりません。理由が分からない動作は「勝手に動く」と受け取られ、仕組みごと止められます。

対処は単純で、アプリを開かずに操作できる手段を1つ残すことです。壁のスイッチ、据え置きのボタン、付属のリモコンのいずれかで、自動化を一時的に無効にできる状態を作ります。そのうえで、同居している人には「何が、いつ、なぜ動くか」を先に伝えます。共用部から始めず、自分が使う部屋で1台動かして、安定してから広げると衝突が起きにくくなります。

生活空間と仕事部屋が同じなら、家庭向けの機器をそのまま仕事に使うことになります。会議中の通知や個人アカウントに紐づいた設定など、業務で使うときだけ出てくる問題があるため、スマートホーム製品を仕事場で使うときの注意点を先に確認すると手戻りが減ります。

止まったときに手で戻せるかを、導入前に確かめます

自動化は止まります。通信が切れる、提供元のサービスが停止する、電池が切れる。この3つは想定に入れておきます。

確かめるのは、止まったときにどちらへ倒れるかです。照明なら点いたまま、施錠なら施錠されたまま、電源なら通電したままが安全側になります。逆側に倒れる設定になっていないかを、導入したその日に確認します。方法は簡単で、Wi-Fiを切ってから機器を操作してみるだけです。手元の操作だけで動くのか、外部との通信が前提なのかが、ここで分かります。

復帰の手順は、スマホ以外の場所に残します。締め出しや停電のときは、アプリを開けない可能性があるからです。紙1枚に、電池の入れ替え方、手動に戻す操作、物理の鍵の置き場所を書いておけば足ります。壁のスイッチや付属リモコンで従来どおり使える機器なら、通信が止まっても被害は自動化が消えるところで収まります。

最初の1つを決める手順

対象を1つに絞るところまでを、次の順で進めます。

  1. 1週間、仕事部屋の中で手を動かした操作を書き出します。内容と回数だけで構いません
  2. 1日1回以上のものだけを残します
  3. 残ったものについて、動く条件を1文で書いてみます。書けないものはここで外します
  4. 失敗しても手で取り返せるものを1つだけ選びます。同時に2つ始めると、どちらが効いたのか分からなくなります
  5. 2週間動かし、その操作を手でやった回数が減ったかを見ます。減っていなければ外します

5番目の「外す」を最初から工程に入れておくと、合わなかった仕組みが残り続けません。自動化は足すより外すほうが後回しになりやすく、使われないまま通電している機器が増えます。

対象が決まって機器を比較する段階に来たら、連携できるか・止まったときにどうなるか・誰が管理するかで絞り込みます。その進め方はスマートオフィス機器の選び方で扱っています。

よくある詰まりどころ

賃貸で工事ができない

配線や壁のスイッチに手を入れる方式は、原状回復の対象になるかどうかを管理会社に確認する必要があります。確認の手間を避けたいなら、既存の電源やリモコン信号の手前に挟む方式、置くだけのセンサーなど、工事を伴わない範囲に限定します。

会議中に照明や機器が動く

会議の時間帯を除外条件にするか、会議に使う部屋を対象から外すかの二択です。除外条件は条件数を増やすため、会議が多い部屋では対象から外すほうが安定します。

機器が増えて配線が増えた

電源とアダプタが増えるのは避けられない副作用です。系統を決めずに足すと、どのケーブルがどの機器のものか分からなくなります。整理の順序は仕事部屋の配線を整理する順番にまとめてあります。

どこまで自動化すればよいか分からなくなる

判断軸は1つで足ります。その操作を手でやった回数が減ったかどうかです。減っていないなら、便利になったように見えても手間が移動しただけで、設定の確認やアプリの操作に時間を使っているだけかもしれません。その場合は外して構いません。