仕事部屋の設計
個人事業主の仕事環境はどこから整えるか
自宅を仕事場にすると、道具の不足より先に仕事と生活の切り替えが壊れます。問題を切り替え・音・打ち合わせ・保管の4つに分け、体に触れるものから手を入れる着手順と、部屋を分けられない場合の対処をまとめました。
SCOPE
- 対象
- 自宅を仕事場にしている、またはこれから整える個人事業主
- 到達点
- 限られた予算で優先順位を決め、最初に手をつける場所を選べる状態
自宅の一角で仕事をしている人が最初に感じる不便は、机の広さや椅子の座り心地ではないことが多いです。夕方にいったん片付けた書類とノートPCを、翌朝また同じ場所に広げる。この出し入れが1日2回、月に40回以上発生しています。1回3分でも、まとめれば2時間分の作業が消えています。
もう1つ、自分では気づきにくい変化があります。仕事が終わったかどうかが分からなくなることです。勤め先があれば退勤という区切りが外から与えられますが、自宅で働く場合は誰も区切ってくれません。夜にメールを開き、休日に見積書を作り、その分だけ平日の昼間の集中が落ちます。
つまり、自宅を仕事場にしたときに最初に壊れるのは道具ではなく、仕事と生活の切り替えです。ここを放置したまま機材を足しても、稼働時間は戻りません。予算に限りがあるほど、どの不具合から手を入れるかの順番が結果を分けます。
自宅が仕事場になると、不具合は4か所に出ます
同じ空間が生活と仕事の2つの用途を持つと、問題は次の4か所に出ます。出方が違うので、対処も分けて考えます。
切り替え:始業と終業の合図がないため、稼働時間が静かに伸びます。伸びていることに本人が気づきにくいのが厄介な点です。
音:自宅の生活音には自分が慣れてしまいます。困るのは相手側で、Web会議や電話で先に表面化します。
打ち合わせと来客:自宅に人を呼べない、または呼びたくない場合、対面の依頼が来るたびに場所探しと日程調整が発生します。
保管:紙の書類とデータが、生活の物と混ざった状態で溜まります。日常では困らず、申告のときと過去の取引を照会されたときにだけ困ります。
| 切り替え | 音 | 打ち合わせ | 保管 | |
|---|---|---|---|---|
| 表面化する時期 | 開始から2〜3か月後、または繁忙期 | 最初のWeb会議 | 対面を求められたとき | 申告時期・過去分の照会時 |
| 放置すると増えるもの | 実働時間と、休んだ感覚のなさ | 聞き返しと会話の停滞 | 都度の場所探しと日程調整 | 探す時間と再発行の依頼 |
| 最初の対処にかかる費用 | ほぼかからない | 小さい | 使うときだけ発生する | 小さい |
| 先送りできるか | できない | 会議の頻度による | 依頼が来るまで待てる | できない |
先送りできないのは切り替えと保管です。どちらも、後から直そうとすると過去分のやり直しが要ります。切り替えは生活のリズムが固まってからでは変えにくく、保管は分類のないまま積み上がった紙とデータを後日まとめて仕分ける羽目になります。
着手順は「体に触れるもの → 目に入るもの → それ以外」
環境に手を入れる順番は、接触時間の長いものからにします。
1つ目は、体に触れるものです。椅子、机の高さ、キーボードとマウス、床と足の関係。1日に何時間も接している上に、合っていないときの影響が姿勢として蓄積し、あとから戻すのに時間がかかります。
順番として、机の高さを椅子より先に決めます。既製の机は高さが固定されているものが多く、机に合わせて椅子を上げると足が床から浮きます。浮いた状態は太ももの裏で体重を支えることになり、長時間では持ちません。足が浮くなら、椅子を下げるのではなく足元に台を入れます。
2つ目は、目に入るものです。画面の高さ、明るさ、視線の先にあるもの。ノートPC単体で作業していると画面が視線より下に来るため、首が前に出た姿勢で固定されます。本体を台に載せて外付けのキーボードを使うだけで、姿勢はかなり変わります。画面の枚数やサイズをどう決めるかは、在宅ワーク用モニターの選び方で作業の種類ごとに整理しています。
3つ目が、収納・照明・配線などのそれ以外です。ここは日々の不便としては小さいものの、機器が増えてから手をつけると作業量が跳ね上がります。特に配線は、増やす前に系統を決めておくと崩れません。順序と考え方は仕事部屋の配線を整理する順番にまとめています。
この順序には例外があります。いま使っている道具のどれかが業務を止めているなら、順番は無視して先に直します。作業中にPCが落ちる、回線が切れて会議が中断する、といった状態は、姿勢の問題より優先されます。なお、道具全般にどう予算を配分するかという枠組みは仕事道具にお金をかける優先順位の担当範囲です。この記事で扱うのは、自宅という条件がつく場合の順序に限ります。
部屋を分けられないときは、時間と向きで分けます
独立した1部屋を仕事専用にできる人のほうが少数です。分ける手段は壁だけではありません。
| 別室にする | 家具で仕切る | 同じ机を時間で分ける | 机だけ専用にする | |
|---|---|---|---|---|
| 切り替えの効き方 | ドアの開閉がそのまま合図になる | 視界は切れるが気配は切れない | 合図を自分で作らないと効かない | 座る向きが合図になる |
| 生活音 | 距離の分だけ減る | ほとんど減らない | 時間帯をずらすしかない | ほとんど減らない |
| Web会議の背景 | 固定できる | 仕切りが背景になる | 時間帯で背景が変わる | 壁を背にすれば固定できる |
| 崩れ方 | 崩れにくい | 使わない物が寄ってきて埋まる | 出し入れが面倒になり出しっぱなしになる | 私物が1つ載ると戻らない |
| 住居側の制約 | 部屋数が要る | 通路と採光をふさぎやすい | ほぼない | 机1台分の場所が要る |
時間で分ける場合、合図をどう作るかがほぼすべてです。終業時に机の上を空にする、電源タップのスイッチを1つ切る、照明の色を変える、仕事用の椅子から立って別の場所に座る。どれでも機能しますが、合図は1つに絞ってください。複数用意すると、忙しい日に全部を飛ばすことになります。
家族と同居している場合は、合図を相手にも見える形にします。自分の頭の中だけの区切りは他人には伝わらないため、話しかけられて中断し、そのたびに切り替えが失われます。ヘッドセットを着けている間は声をかけない、といった取り決めのほうが、部屋の間取りより効きます。
机だけを専用にする方法は手軽ですが、条件が1つあります。その机には生活の物を置かないことです。郵便物や飲みかけのコップを1つ置いた時点で、その机は生活側に戻ります。専用にすると決めたなら、置き場所を別に用意してから始めます。
音は、自分に聞こえる音より相手に入る音から直します
洗濯機、換気扇、インターホン、道路の車。自宅の音は自分では慣れて聞こえなくなりますが、マイクは拾います。相手は聞き返すか、聞き返さずに聞き流します。後者のほうが多く、そして気づけません。
手を入れる順序は、マイクとの距離、部屋の反響、音源そのもの、の順です。効果が最も大きいのは距離で、口とマイクが離れているほど、部屋の音と声の比率が悪くなります。PC内蔵のマイクで話している状態は、この比率が最も悪い条件です。
次に反響です。フローリング、白い壁、大きな窓が多い部屋は硬い面が多く、声が返って輪郭がぼやけます。カーテンを閉める、床にラグを敷く、本や布のある面を作る、といった対応で変わります。ここは新しく買わなくても、部屋にすでにある物の配置で試せます。
音源そのものへの対処は最後です。インターホンや洗濯機は、会議の時間帯とずらす、宅配の受け取り方法を変える、といった運用で減らせます。機器を替えて解決する範囲と替えても解決しない範囲の切り分けは、Web会議用イヤホンの選び方で扱っています。なお、声がとぎれとぎれになる、音が遅れて届くという症状は音響ではなく回線側の問題なので、仕事場のWi-Fi環境を改善する手順から確認してください。
取引先とのやり取りで要るのは、住所・電話・打ち合わせ場所の3つ
環境の話は室内で完結しがちですが、外との接点で必要になるものが3つあります。どれも、後から変えると相手全員への連絡が発生します。
住所。請求書、契約書、Webサイトに記載する住所をどうするかを先に決めます。自宅住所をそのまま使うか、外部の住所を借りるかの判断は、不特定多数に公開されるかどうかで大きく変わります。取引先にだけ伝わる範囲なら自宅で足りることが多く、Webサイトなどで公開する形態の事業なら別に考えます。外部の住所を借りる場合は、住所貸しのみの型、郵便物の受け取りと転送まで含む型、実際の作業席が付く型があり、確認すべきなのは転送の頻度、来訪があったときの対応、法人化したときに登記に使えるか、解約時にどこまで住所変更が必要になるかです。通信販売のように法令で表示が求められる事業形態では、表示できる住所の条件が決まっている場合があるため、事前に公的な情報で確認してください。
電話。携帯番号をそのまま出すと、営業電話と取引先からの連絡が同じ経路に混ざり、稼働時間外にも鳴ります。番号を分ける手段としては、業務用の回線を別に持つ方法、番号だけをアプリで持つ型のサービス、既存番号への転送を使う方法があります。判断の材料は、相手が電話をかけてくる業種かどうかです。連絡がメールとチャットで完結する取引先ばかりなら、番号を増やす手間のほうが上回ります。
打ち合わせ場所。自宅に呼ばない前提なら、依頼が来る前に候補を決めておきます。相手先に出向く、時間貸しのスペースを使う、共用の作業場所に付いている会議室を使う、の3つを事前に調べておくだけで、都度の調整が短くなります。オンラインを標準にする場合は、最初のやり取りの時点でその旨を伝えておくと、対面を前提に話が進んだあとで断る展開を避けられます。
紙とデータは、分類より先に入口を1か所にします
保管が崩れる原因は、分類のルールがないことではありません。入口が複数あることです。郵便で届く紙、手渡しの控え、メールに添付されたPDF、スマートフォンで撮った領収書の写真。入口が4つあれば、置き場所も4か所に分かれ、探すときに4か所を見ることになります。
やることは3段階です。まず紙の入口を1か所に決めます。箱でも書類受けでも構いません。届いた紙はいったん全部そこに入れます。次にデータの入口を1か所に決めます。撮った写真も受け取ったPDFも、まず同じ場所に入れます。そのうえで、週に1回まとめて処理します。届いたときに処理しようとすると、忙しい日に必ず崩れます。
処理のときは、紙を2種類に分けます。原本を残す必要があるものと、内容が残ればよいものです。後者は取り込んで処分し、前者だけを年度ごとに箱で保管します。生活の書類とは同じ箱に入れません。混ぜると、1件探すたびに全部を見ることになります。
電子で受け取った取引書類の保存については、電子帳簿保存法で扱いが定められています。要件は保存方法によって変わるため、最初の申告を迎える前に、公的な情報で自分の場合の条件を確認しておいてください。
置き場所は、湿気の多い場所と家族が日常的に触る場所を避けます。紙は数年単位で持つことになるため、いま出し入れしやすいかより、数年後に読める状態かで決めます。
次に決めること
順番に迷ったときは、次の5つを上から片付けてください。どれも1日で終わります。
- 終業の合図を1つ決めて、7日間だけ続けます。続かなかった場合、意志ではなく合図が生活の動線に合っていないので、別の合図に替えます
- 座った状態で足の裏が床に着いているかを確認します。着いていないなら、椅子を下げるのではなく足元に台を入れます
- 次のWeb会議で、相手に一度だけ「こちらの音は聞き取りにくくないか」と聞きます。慣れてしまった生活音は、自分では検出できません
- 紙とデータの入口を1か所ずつ決めて、今ある書類をそこに集めます。分類はまだしません
- 請求書・契約書・Webサイト・名刺のうち、どこに住所と電話番号を出しているかを書き出します。これが、将来それらを変えるときの作業量です
編集部としては、最初に着手するものを1つに絞ることをすすめます。環境の整備は同時に複数を動かすと、どれが効いたのか分からなくなり、次に何を直すべきかの判断材料が残りません。